昨年11月に、管理職向けの「脳科学をベースとしたモチベーションマネジメント」のセミナーで、イギリス人講師の通訳を務めた。
モチベーションマネジメントというと、抽象的な内容が多いが、このセミナーでは、脳科学、認知学、心理学という三つの学問を組み合わせ、人の脳の構造の働きを科学的に解説をした上で、部下のモチベーションマネジメントにおける、コツや落とし穴を説明するというものだった。
そのセミナー中身は、機密情報であり僕は著作権を持っていないので、僕からは触れない。しかし、それ以降、脳科学に興味を持ち始め、私の本業のためにも脳科学に関する本を読むようになった。その中から、最近僕の中でホットなRASという物を紹介したい。
なお、僕は科学的に正確に説明することを目的としている訳ではないので、その正確な解説を知りたいのであれば、ご自身で調べてみて欲しい。
人間は、100の情報を受信しても、1の情報しか脳に届けない
人間は、五感や第六感でありとあらゆる情報を受信するが、その受信した情報の内、そのわずかしか脳には届かない。
実は、我々人間は想像以上の情報を無自覚にキャッチしている。しかしそれら全ての情報を脳に伝達すると、あまりにも多い情報のため、脳がパンクしてしまう。そこで、受信した情報をあるフィルターにかけて、そのフィルターを通った情報だけが、脳に伝達されるらしい。
そのフィルターこそが、網様体賦活系(RAS)である。
網様体賦活系(RAS)とは?
網様体賦活系(RAS)とは、簡単にいうと、自分にとって必要な情報だけをキャッチして、脳に通すフィルター。要は、自分の目的に沿った情報だけを脳に伝達するという機能です。
例えば、ファミリーバンに興味がなく普段街を歩いていてもあまり見かけないのに、ファミリーバンを買う必要性が出てきた瞬間から、街を歩いているとファミリーバンだらけに見えてしまうなど。この現象は、このRASの働きに寄るものらしい。
このRASは、脳の中で描かれる「どんな状態を目指すか?(ゴールや目的)」とセットで必ず機能している。脳の中で、「どんな状態を目指すか?」(WHAT)を明確にすればするほど、それに必要な情報をRASが選別してフィルターしてくれるようにセットされ、そのWHATを実現するための方法(HOW)に関する情報を、RASが勝手にたくさん脳に流し込んでくれるようになる。
つまり、重要なことは「どんな状態を目指すか?」(WHAT)をどれだけ明確にできるか?だけ。そのやり方(HOW)は、RASに任せておけば勝手に情報を脳に流してくれる。
フィルターを書き換えれば運命が変わる?!?
例えば、「どこから手をつけたら良いのか?」全くわからないような大きくて複雑なプロジェクトを任されたとする。そのプロジェクトを突きつけられて、机の前で呆然としているとする。そんな時、RASを上手く活用して、自分にとって重要な情報をかき集めるためには、そのプロジェクトの目指している状態を描けば良いのだ。
例えば、僕は今「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたい」と思っている。僕はそんなプロジェクトや活動に縁も所縁もない。こんな時、大事なのは、「どうやったらその活動に関われるか?」を考えることではなく、「そんな活動を通じて、どんな状態になりたいのか?」を明確にすると、後はRASが必要な情報を私に届けてくれる。そしてそのRASがかき集めてくれた情報を頼りに、次の行動をして行けば良いのだ。
ある種自分自身の運命を切り拓く可能性すら、このRASは秘めていると僕は感じている。
フィルターの描き換えを阻む4つの落とし穴
「私は、過去何かをやり遂げたい、何かを実現したいと思って生活して来ているのに、実現することは稀である。RASなんて機能しないじゃないか?」という声が聞こえて来そうだ。何故なら、私もそう思っている類の人間だった。
しかし、どうもこのRASを描き換えるためには、4つほど落とし穴があると僕は思っている。
1. 目指す状態は、かなり具体的に描く
1つ目は、「目指す状態」を、めちゃくちゃ明確に描く必要がある。「今よりも条件の良い会社に転職したい」なんてものは論外。とにかくA4用紙何枚もになるくらい、「どんな景色が見えるか?」「誰のどんな表情が見えるか?」「待遇は?」「オフィスレイアウトは?」「勤務地は?」「見える景色は?」「部下の人数は?」などなど、徹底的に描き切る必要がある。そこまで具体的に「目指す状態」を定義すると、そのために必要な情報を、RASがかき集めてくれる。逆に曖昧に定義すると、RASが送り込んでくる情報は、どうしようもない煽り系の転職サイトの電車広告、テレビ広告、ネット広告程度のものだ。
2. 目指す状態は、肯定的な表現にしよう
2つ目は、目指す状態を、肯定的に描くことである。「ブラック企業じゃない所に転職したい」ではなく、「ホワイト企業に転職したい」という表現で目指す状態を描く必要がある。ただし、上記の通り「ホワイト企業とは何か?」を具体的に描く必要はある…全て肯定的な表現で…
3. WHATに集中しよう
3つ目は、目指す状態が、壮大なものであればあるほど、「どうやったらそれが実現できるのか?」(HOW)に疑問が湧いてしまうのが人間の性であるという点。目指す状態を描こうとしているのに、描く過程で、「こんな障壁もある。あんな課題もある。これが問題になりそう。これらはどうやって克服するのか?」など、たくさん出てきてしまいます。そう言ったHOWの話は、全てRASが素敵な情報や知らせを持ってきてくれます。だから、WHAT(=目指す状態)を描くことだけに意識を集中させましょう。
4. その目指す状態は、潜在意識?顕在意識?
そして、4つ目が、僕は一番難しいと思っている点である。それは、その目指す状態は…
あなたがそう思っていることなのか?
それともあなたが「そう思っている」と言っているだけのことなのか?
…という違いです。
例えば、僕の例で言えば…
「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたい」と思っているのか?
それとも「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたいと思っている」と言っているだけなのか?
…という違い。
少なくともかつての僕は、「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたいと思っている」と言っているだけだった。顕在意識でもそう思っていた。しかし、潜在意識上は、「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたいと思っている人に見られたい」から、そう言っているだけだったのではないかと、今は思うようになった。
更にその深層心理では…
- 海外に言って自分の英語力不足を突きつけられるのが怖い。
- 海外の人権問題の火の中に入って行くのが怖い。
- そこでズタボロにされて、笑われ者になるのが怖い。
- そんな活動に関わって、偽善者と言われるのが怖い。
つまり、僕の裏側の「目指している状態」は…
- 「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたいと思っている人」に見られること
- 英語力不足という現実を目の当たりにされないこと
- 海外の人権問題の火の中に入って行かずに済むこと
- 笑われ者にならないこと
- 偽善者と言われないこと
…と、こんな感じのことが、「目指している状態」になっていた。
こんな「目指している状態」を脳の中で描いていたとしたら、RASは一体どんな情報フィルターをかけてくるのか?
きっとRASは、「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたいと思っている人」に見られたいから、そういうセミナーとか交流会や書籍の情報を流し込んでくる。同時に、「いかに僕が無能で、英語が話せなくて、火の中に入って行く勇気もなく、火の中で戦い抜く能力がないから、海外の人権問題なんか関わるべきでないか?」を立証するための情報を僕の脳に流し込んでくる。
そして、僕の顕在意識では、「僕には、まだ能力がない。まだ早い。」と先送りの判断をする。
このように実は、RASを書き換えるのは、深層心理も絡んでくると私は考えている。
だから、フィルターを書き換えるのは決して簡単ではない。
人体実験中のフィルターの描き換え方
僕に答えがある訳ではない。特に4つ目の落とし穴については、深層心理を見る必要があるため、コーチング、NLP、カウンセリングなど専門的な技術を要する領域だ。
ただ、もっと手軽にやる方法が欲しいと考えた僕が今試しているのは、(極力)毎日「目指している状態」の景色を、肯定的な言葉を使って、辛抱強く描き続けることだ。
描く時は、まず自分に素直になる。そして、あたかもすでに達成したかのように、過去形で、手書きで、その情景を事細かく描き出す。(余談だが、手書きの方が脳を書き換える力があるらしい)
これは、世の中のワークショップで、良く使われている「ビジュアライゼーション」という方法である。
スポーツ界隈では、「イメージトレーニング」というもの。
しかし、これで果たして4番目の落とし穴は克服できるのだろうか?それは正直、実感がまだないからわからない。ただ世には、「アファーメーション」という手法がある。これは言葉の強制力で、潜在意識も書き換える強力な力を持っている。
例えば、サッカー日本代表の本田圭佑もこのアファーメーションを欠かさずにやっているらしい。心当たりありますよね… 良くビッグマウスとか言われていましたよね。あのビッグマウスは、アファーメーションの一つなんだと思います。ビッグマウス万歳。僕は好きです。運命や責任を背負った覚悟の先にしか生まれない言葉。揶揄するのは、自分の運命や責任を背負ってない人のような気がする。
この「ビジュアライゼーション」と「アファーメーション」は、科学的にも立証されている方法らしく、自分の最高の状態、目指している状態を常に描くことで、そのために必要な情報を引き寄せるために、多く使われている方法だそうです。結果的にRASのフィルターを書き換えることで、必要な情報の引き寄せを意図的に起こして行くということをしてくれるのではないかと考えています。
僕が人体実験しているテーマ
なお、「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行く」というテーマについて、これから「ビジュアライゼーション」と「アファーメーション」を使って、「目指している状態」を明確にして、フィルターを書き換えて、RASを頼りに活動してみようと考えています。
それ以外にも、「システムコーチングである」、「遊べる人である」、「年収500万円である」、その他、今やりたいと思っているプロジェクトなどをテーマに、人体実験を目論んでいるので、その経過報告は、このコラムでまた報告する予定です。
ちなみに、「海外の人権問題に関する活動にもっと関わって行きたい」と思っているのかどうか確証もないのに、そこに進もうとした経緯は、またの機会にでも、こちらで書こうと思います。